[報告]第1・2回哲学相談読書会
テキスト:Lou Marinoff, PHILOSOPHICAL PRACTICE,(Academic press, 2002)chapter.5 Client Counseling
報告:桂ノ口結衣
5-1. Some formative names
1節では、「哲学カウンセリング」は何か目新しいものであるかのように言われることもあるが、古代から断続的に続いてきた営みが、現代のコンテクストのなかで再発見・リフォームされたものであることが確認されました。「現代のコンテクスト」とは、20世紀初頭のフロイト派精神分析からはじまる「トークセラピー」の専門職化です。「哲学カウンセリングの再発見」については、その初期にラッセル『幸福論』などが位置づけられ、また勃興期である1970〜80年代初期には、ヨーロッパで「第一人者」と称揚され続けるアーヘンバッハのほかにも、とくにアメリカで、同時多発的にさまざまな動きが起こっていたことが紹介されました。
5-2. How I became a philosophical counselor
2節では、ルーマリノフのバイオグラフィを簡単に辿ることで、創成期の哲学プラクティショナーたちが、それぞれに特有の思いがけない道を辿ってきたことを知りました。ルーマリノフの道からは、公用サービスとして応用倫理コンサルテーションを精力的に行うことになっていくことになった90年代の応用倫理学者たちの流れが見えました。
5-3. The geometry of philosophical counseling
3節では、「哲学カウンセリングがたしかに専門職であるとすれば、それはどのように特徴づけられるのか?」に対してルーマリノフが挙げる2つの特徴のうちの1つ、「楕円形的」ということが説明されました。「楕円形的」とは、端的には、人間が生物学的であると同時に文化的存在でもある(二つの焦点を持つ)ということです。楕円形的である人間においては、生物学的な次元から発生した問題が文化というレンズを通して必ず屈折してしまうのだけれども、哲学カウンセリングは、どこで屈折したのか、どのような屈折であるのか、といったことを調べる助けとなるものであるといった彼の考え方が述べられました。
5-4. The modality of dialogue
4節では、2つの特徴のもう1つ、「ダイアローグであること」について説明がなされました。
ダイアローグであるということは、「モノローグ(=さらなる理解や進歩をもたらさないもの)でない」ということです。 また、カウンセラーとクライアントとの間でなされる哲学ダイアローグについては、2点が確認されました。1点めは、それがどんなに情け容赦ないセッションだったとしても、決して「対立的adversarialにならず、吟味の繰り返しreexaminationをする」必要があるということ。
カウンセラーは、クライアントの論敵や批評家ではなく、あくまでクライアント自身が哲学していけるようになるためのアドボケットであり、ガイドでなければなりません。
もう1点は、「診断的diagnosticにならない」ということです。クライアントの抱えている問題を患いillnessだとは捉えない。
マリノフは、哲学カウンセリングを指す「正気な人へのセラピー」という言い方が、いかに妥当であるかを述べました。
5-5. A typology of philosophical counseling dialogue
5節では、哲学カウンセリングにおけるダイアローグが、大きく3タイプに分類されました。
[Aタイプ]問題に対してクライアントとカウンセラーが会話を続けるという一般的な哲学探究のタイプ。これといった方法があるわけではないが、多くのクライアントに有益な部分は自ずと伸びていくし、また、哲学を専門的に学んだ場合身につけられる、問題に接近・分析・再解釈する技能は役立つ。ただし、人の不合理な信念というのは、大抵の場合心理的なところにも深い根をはっているにもかかわらず、ただの理論哲学者には、そうした部分に関わるような実際の対人的スキルや対人カウンセリングとしての哲学プラクティスのスキルは欠けているので、APPAはその対策として認定トレーニングプログラムを設けている。
[Bタイプ]「大文字の哲学者」の言説を用いる方法。これは、本来は必要な時に適宜使うだけの方法であるのだが、マスコミによってやたら注目され、拡大して伝えられがちである。このタイプのやり方は、クライアントが「大文字の哲学者」の考えそのものよりも、権威にすがりがちになってしまう危険性があるため注意が必要。
[Cタイプ]クライアントの教養が高く、既に自身の問題に対して有益な哲学的アイデアを持っていて、そのアイデアのコンテクストをもっと探究したい、という場合に用いる、いわゆる「読書療法biblio therapy」。
5-6. The golden triangle
6節では、哲学カウンセリングを、生物学biology=身体、物理的----感情/情動affect=心理的----思考thought=志向的 という3つの要素の関係から特徴づけるマリノフの主張が展開されます。「楕円形的(5-3)」という主張で述べられていたのと同じく、こうした3項のうちいずれかのみで捉えるしかたは充分ではなく、必ずその全体的な観点を持つことが肝要であるとのこと。こうした考え方は、大きくは「人間の心の医療化」に抗し、普通の人間の問題を「脱医療化 demedicalize」するという動きの中に位置づけられます。また、この三角形モデルは、もう一つスピリチュアルな存在、宗教的、神話的存在としての人間という側面を頂点に加えることもできるだろうと示唆していました。
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